ドクター日浅の”健康雑話”其の三十
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ドクター日浅の”健康雑話”其の三十
2025.06.24
海南病院のホームページを訪ねてくださりありがとうございます。
私が海南病院に勤務するようになって7年を迎えようとしています。月曜日の外来にはたくさんの方が受診してくださるようになり、医者冥利に尽きると感謝しています。
これからも海陽町民をはじめ、南部地域の方々に少しでも健康面でお役に立てればと願っています。その一環として、日々の診療の中で経験したことや感じたことを雑談的に書いてみたいと思います。気楽に読んでいただければ幸いです。
2000年以上前、中国の魏の時代に扁鵲(へんじゃく)という脈診を医療に取り入れた名医がいました。時の文王が扁鵲を呼び、「お前たち兄弟3人のうち誰が一番名医か」と問いました。扁鵲は「長兄が最も名医で、病気になる前に治してしまう。次兄は病気が軽いうちに治すので、そこそこ有名になる。私は重症になってしまった患者を治すので、医師としては最も劣るが有名にはなった」と答えました。
これは心臓病についても通じることです。日頃、病気にならないような生活習慣を身につけ、ときに検診を受けて身体の状況をチェックすることが最も大事です。仮に心臓病になっても、病気を再発させず、心不全に移行させないよう自己管理をすることが次に重要なことです。それでも重大な心臓病が発症した場合は、あわてず躊躇することなく受診することが必要です。
心臓病の予防、管理に最も重要なことは日頃からの血圧と体重のコントロールと思います。このため、家庭に上腕測定の血圧計と100g単位で計測可能な体重計は必需品です。心臓病(ことに動脈硬化が原因のもの)を引き起こしやすい要因を心血管危険因子と呼びます。高血圧、低い身体活動、喫煙、高血糖、LDL(悪玉)コレステロール等があります。なかでも高血圧は脳心血管病死亡の寄与度が他の危険因子の2倍から4倍あり、日本では年間約10万人が高血圧により死亡しているとされています。
現在病気のない方が心臓病にならないため(一次予防)には、収縮期血圧(上の血圧)を130㎜Hg 未満に保つことが重要です。何らかの心臓病を持っている方が再発予防や心不全に移行しないため(二次予防)には、可能なら120㎜Hg 未満にすることが理想的です。血圧測定は決められた方法での起床時の測定が必要不可欠です。体重とともに手帳に記載、記録してください。
高血圧の最大の原因は食塩の過剰摂取です。以前に比し日本人の食塩摂取量は減少し、1日平均10g前後になりました。厚労省は一般人の食塩摂取の目標量を1日男性7.5g、女性6.5gとしています。高血圧症の方や心臓病保有の方の減塩目標は6g未満です。醤油小さじ1杯には1gの塩分が含まれています。できるだけ少なくし、すだちやレモン等、塩分の含まない他の調味料を使用しましょう。
塩分が多く含まれている加工食品や食材の摂取を減らしましょう。最も大事なことは家族全員で薄味に慣れることです。
心臓病の二次予防には多くの場合、薬物治療が必要ですが、それにもまして重要なのは生活習慣を是正し、前述した心血管危険因子をコントロールする一般療法です。全ての心臓病は適切な二次予防ができないと心不全に移行します。心不全は死に至る病気で完全に治ることはありません。早期発見、早期治療により病気の見通しを改善することができます。家庭での早朝空腹時の体重測定は心不全を予防し、再発させないため手軽で確実な方法です。心不全療養指導士等から自分の適性体重を決めてもらいましょう。適性体重から1㎏前後は変動範囲と考えられますが、前日より500g以上増加していれば、塩分や水分をとり過ぎていないか、過食をしていないかチェックし、是正できることがあれば正しましょう。1週間で2㎏以上増えた場合は、すみやかに受診することが必要です。
心臓病は癌についで死因の2位を占めています。徳島県の人口10万あたりの死亡率は全国ワースト10位(234.5人、2022年)と報告されています。心臓病は正しく理解し、治療すれば怖い病気ではなく、長生きできる病気です。
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其の一 飲酒後コタツで一瞬気を失った
其の二 お尻から太ももの後ろがしびれるので整形外科を受診した
其の二十八 お互いが信頼できる医療を行うために</~私が考える賢い医者のかかり方10箇条~