ドクター日浅の“健康雑話” 其の四

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ドクター日浅の“健康雑話” 其の四

2022.05.16

SCAN0574海南病院のホームページを訪ねて下さりありがとうございます。

私が海南病院に勤務するようになって3年近く経ちます。月曜日の外来にはたくさんの方が受診して下さるようになり、医者冥利に尽きると感謝しています。

これからも海陽町民を始めとした南部地域の方々に少しでも健康面でお役に立てればと願っています。その一環として、日々の診療の中で経験したことや感じたことを雑談的に書いてみたいと思います。気楽に読んで戴ければ幸いです。

其の四  心臓専門医の急性心筋梗塞体験記(中)

 

 心電図変化を目にした時、“まさか”という思いと“やはり”という納得感が入り混じった複雑な気持ちになった。それでも次になすべきことはすぐ思い浮かんだ。まずニトロペンを口中溶解した。効果はなかった。次は赤十字病院に電話をし、詰まった心臓の血管(心電図所見から心臓の前面を走る左前下行枝と判断)を早急に開通させる手筈を整えてもらうことだ。幸い電話口に最も信頼できる医師の一人である當別當洋平先生が出た。事情を話すと「えー、先生自身のことですか?」と驚いていたが、すぐに救急車で来院するようにと言ってくれた。
 ここからは普段研修医に教えている急性心筋梗塞患者さんが来院した時になすべきことを碩心館病院のスタッフに行ってもらった。救急車が来院するまでに点滴で静脈ラインを確保すること、血栓溶解剤のヘパリンを5㏄(5000単位)静脈注射すること、ステント留置に備えて抗血小板薬のアスピリンとエフィエントを内服すること等である。看護師さんや薬剤師さんは実に迅速に手際よく行ってくれた。藤本院長も紹介状を書いて渡してくれた。
 救急車のベッドの上では色々考えた。死についてはさほど切実感がなかった。それでも人生で自分のやりたいことはほぼできた、両親の歳以上に生きられた、子供たちも自立している、マァ満足な人生ってこんなものだろう等々取りとめもない思いが浮かんだ。それより気になったのは次週の海南病院の外来のことだ。月曜日、火曜日に確か100人以上の予約患者さんがいたはずだ。患者さんやスタッフに迷惑をかけるなあと思い、付き添いで同乗してくれていた竹本看護師に「明日にでも海南病院に電話して」と依頼した。
 実は救急車で搬送されるのはこれで二度目である。今回も思った。警報音のうるささやベッドが硬くて車の振動が直接伝わる居心地の悪さは何とかならないものかと。今回違ったのは竹本看護師の「先生、大丈夫だから。頑張って」と云いながら手を握ってくれた優しい励ましがあったことだ。勇気づけられた。
 39年間勤務した病院を久しぶりに訪れた。それも救急患者として。搬送ベッド上で目を閉じていてもどこを通っているかわかる。2階の救急処置室で型通りの簡単な問診、バイタル・サインの確認、採血、心電図検査、心エコー検査等のチェック後直ちにカテ室に運ばれた。
 閉眼していても声や動きで誰が何をしているかほぼ見当がつく。どうやら小倉理代先生が術医らしい。いつもながらの優しい声が術前の緊張と不安を和らげてくれた。橈骨動脈穿刺も一発でOKだった。2~3回の造影後、「左前下行枝の中位部が閉塞しています。幸い大きな枝を出した後です」と私の知りたい情報を簡潔に説明してくれた。私が日頃ステント留置一辺倒でないことを知ってか、「ステントを留置しますがいいですか」と確認してくれた。バルーンで再開通した途端、背中の違和感がスーと消えていくことを実感した。同時に「心電図でSTが戻ってきましたよ」との声がかかった。その後径3.0㎜のステントを留置し30分足らずで私のPCI(経皮的冠動脈形成術)は終わった。

 

ドクター日浅の健康雑話 過去の記事はこちら

其の一 飲酒後コタツで一瞬気を失った

其の二 お尻から太ももの後ろがしびれるので整形外科を受診した

其の三 心臓専門医の急性心筋梗塞体験記(上)