ドクター日浅の”健康雑話” 其の二十九

NEWS

  1. TOP
  2. お知らせ
  3. ドクター日浅の”健康雑話” 其の二十九

ドクター日浅の”健康雑話” 其の二十九

2025.04.07

海南病院のホームページを訪ねてくださりありがとうございます。
 私が海南病院に勤務するようになって7年を迎えようとしています。月曜日の外来にはたくさんの方が受診してくださるようになり、医者冥利に尽きると感謝しています。
 これからも海陽町民をはじめ、南部地域の方々に少しでも健康面でお役に立てればと願っています。その一環として、日々の診の中で経験したことや感じたことを雑談的に書いてみたいと思います。気楽に読んでいただければ幸いです。

其の二十九 胸の広い範囲に不快な感がする(労作性狭心症)

~農作業の際に生じ、中断する 3分で治まる~

 

 若いころから農業が大好きな68歳のM男さん。最近、農作業をするのが億劫になっていました。俯いて行う土堀りや野菜の収穫作業の際、あるいは重いものを運んだりすると決まって胸が何かに押しつけられたような不快な感じがします。2~3分休むと何事も無かったように良くなります。しかし、再開し同じ作業量になった頃に同様の症状が出現します。ただ、トラクターに乗って行う作業では、いくら働いても何ともありません。

    妻の勧めで近所の医院を受診しました。安静時心電図検査では何の異常もなかったのですが、念のためにと私が勤める心臓病専門病院を紹介されました。ベルトコンベアーの上を歩く運動負荷心電図検査でいつもと同じような症状を覚え、心電図に異常が出現しました。私は労作性狭心症と診断しました。手首からカテーテルを挿入した冠動脈造影検査で、一番大きな冠動脈枝の近位部に高度な狭窄が見つかりました。後日、風船とステントを用い狭窄を開大しました。症状は消失し今はまた農作業に精を出しています。

    狭心症は心臓の筋肉(心筋)を栄養している冠動脈の血流が一時的に悪くなり心筋が痺れる(酸素不足;虚血)を生じる病気です。原因は2つあります。1つはコレステロールが冠動脈の壁の中に入込み、塊(粥腫)を作り血液の通り道を狭くするために生じる労作性狭心症です。他は血管のある部分が一時的に異常に収縮(攣縮)を生じる安静時狭心症(冠攣縮性狭心症)です。この病気については、其のⅣを参照してください。

    労作性狭心症の特徴として次のようなものがあります。
①身体を動かすこと(労作)や精神的な興奮で心筋に負荷がかかることが引き金となる。
②心筋の痺れを反映し痛みではなく、不快な違和感(押さえつけられる、締め付ける、焼けつく等)を感じる。
③症状を感じる部位は前胸部が最も多いが、背中、肩、首、下顎、歯肉等にも感じることがある。
④手のひら以上の大きさの範囲に感じる。
⑤症状は労作を中断すると30秒から5分以内に消失する。
⑥ニトロペンを舌下使用すると、1~2分以内に“波が引くように”症状が消失する

    狭心症は“心臓を狭める”という症状から由来した病名です。疑わしい症状がある方は、上記の症状に合致するかどうかチェックしてみてください。専門医はそれを詳細に聴取することで8割以上の診断が可能です。労作性狭心症を裏付ける検査としては、運動負荷試験が最も一般的です。心電図や血圧計を装着し、ベルトコンベアーの上を歩きます。速度や勾配を段階的に上げることで心筋に徐々に負荷をかけていきます。

    いつもの症状が出たとき、心電図に異常が現れたとき、負荷が標的水準までかかったときに中止します。この検査は診断率が高くかつ安全です。最終的には造影剤を使ったCT検査やカテーテル造影検査で冠動脈狭窄の程度、場所、病変部数等を精査し、診断の確定のみならず治療方針の判断材料にします。

    治療はカテーテルを使い風船やステントで狭窄部を拡張し血液の流れをよくすることが一般的です。冠動脈の全ての枝に狭窄がある方、あるいは左主幹部と呼ばれる最も太い血管と他の枝に病気が重複している重症な方等には冠動脈バイパス手術をお勧めしています。しかし、症状が無い方や心筋虚血を心電図等で客観的に認めない方には、冠動脈に狭窄があっても、こうした治療をせず冠動脈硬化の危険因子である悪玉コレステロールを下げる、高血圧をコントロールする、禁煙をする、糖尿病のコントロールをすることで経過をみることが多いです。

ドクター日浅の健康雑話 過去の記事はこちら

其の一 飲酒後コタツで一瞬気を失った 

其の二 お尻から太ももの後ろがしびれるので整形外科を受診した

其の三 心臓専門医の急性心筋梗塞体験記(上)

其の四 心臓専門医の急性心筋梗塞体験記(中)

其の五 心臓専門医の急性心筋梗塞体験記(下)

其の六 患者さんの感謝の言葉が一番うれしい

其の七 心臓も”気絶する”

其の八 川柳にみる診察室の風景

其の九 中年女性の狭心症は深夜に生じる

其の十 私の診察室から(1)

其の十一 冬のお風呂で“おぼれ死”かけた

其の十二 私の診察室から(2)

其の十三 一杯のラーメンが心不全を引き起こす

其の十四 “高齢だから”は心臓手術の妨げにならない 

其の十五 地域に根ざす先輩たちを見習いたい

其の十六 心臓病の診断や治療もAI(人工知能)の時代

其の十七 高齢者の薬との付き合い方

其の十八 医師がコロナに感染して思ったこと

其の十九 「酒は百薬の長」って本当?

其の二十 増えている心臓病由来の脳梗塞

其の二十一 糖尿病は血管を襲う

其の二十二 漢方薬といえども命に関わる副作用がある

其の二十三 動脈が“生木をさく”ように裂ける

其の二十四 心臓が悪くなくとも心不全になる

其の二十五 臥床が長くなると肺血栓塞栓症になる

其の二十六  高血圧は全ての動脈硬化病の最大の敵

其の二十七  “脈が飛ぶ”不整脈(期外収縮)

其の二十八 お互いが信頼できる医療を行うために</~私が考える賢い医者のかかり方10箇条~