日浅ドクターの”健康雑話” 其の二十七

NEWS

  1. TOP
  2. お知らせ
  3. 日浅ドクターの”健康雑話” 其の二十七

日浅ドクターの”健康雑話” 其の二十七

2024.06.14

海南病院のホームページを訪ねてくださりありがとうございます。
 私が海南病院に勤務するようになって5年を迎えようとしています。月曜日の外来にはたくさんの方が受診してくださるようになり、医者冥利に尽きると感謝しています。
 これからも海陽町民をはじめ、南部地域の方々に少しでも健康面でお役に立てればと願っています。その一環として、日々の診の中で経験したことや感じたことを雑談的に書いてみたいと思います。気楽に読んでいただければ幸いです。

其の二十七 “脈が飛ぶ”不整脈(期外収縮)

~誰もが経験し、大半は放置してよい不整脈~

 

 75歳のT子さんは時に受診する近医から血圧がやや高めといわれていますが、いたって元気で畑仕事に精を出し、友達との集まりにもよく出かける毎日を送っています。ある晩、就寝しようと横になったとき一瞬胸から喉にキュッとつまった感覚を覚えました。何だろうと神経を集中していると、1分間に1~2回同様のことが生じます。その日はいつとはなく寝入ってしまいましたが、翌日の夜も同じようなことが起きました。不安になり近医を受診したところ、不整脈があるとして私の外来を紹介されました。心電図検査で心室性期外収縮であることが判明しました。良性の不整脈であるとの説明で安心したことや減塩食を心がけ血圧が正常域になったことで不整脈は消失しました。
 心臓は一日に約10万回規則正しく収縮と拡張を繰り返し、全身に血液を送るポンプの役割を果たしています。心臓の右上部にある洞結節という部分の発した“縮め”という命令は心臓の壁の中にある「刺激伝導路」を通り、心臓の上の部屋(心房)や下の部屋(心室)の筋肉を収縮させます。期外収縮は洞結節以外の場所から発生する“縮め”という命令で、正常のものより早く出現する不整脈の呼称です。この不整脈が発生すると、心臓に血液が十分充満しないうちに収縮が生じます。

 心臓から出ていく血液量は少ないため“心臓が空回りする”、“胸がつまる”等の不快な症状を覚えることがあります。全く症状を感じない人も多く、偶然の脈拍測定、検診での指摘、血圧測定時の異常の表示等で気付く方もいます。脈を測定すると、一拍だけ弱く感じたり抜けたりします。
 期外収縮のうち心室から出るものを心室性期外収縮、それより上部から出るものを上室性期外収縮と呼びます。期外収縮を含めた不整脈の診断には心電図検査が不可欠です。しかし、通常の心電図検査はごく短時間の情報しか得られないため、24時間携帯型心電図(ホルター心電図)による記録が必要なことが多々あります。

 上室性期外収縮は良性の不整脈です。心室性期外収縮もほとんどは生命に関わるものでなく、薬物等による治療は原則として不要です。誘因となる睡眠不足、過労、深酒、喫煙、ストレス等の生活習慣を改善することで消失・軽減します。ことに喫煙は最も強い誘発因子で禁煙することが不可欠です。
 心室性期外収縮のうち次のようなものは心臓突然死や心不全に移行することがあり、専門医による治療が必要です。①今までに一瞬意識がなくなったことがある(失神発作)、②心筋梗塞、心筋症、心臓弁膜症等の心臓の持病がある、③ホルター心電図等で数個以上の連発、全心拍数の1割以上の高頻度の出現、通常の心拍からごく早期の出現等です。
期外収縮の薬物による治療は、かえって悪性の不整脈を誘発したり、心不全を惹起することがあるため極めて慎重を要します。心臓突然死を起こす様な心室性期外収縮が出現する方には、発作の際、自動的に電気ショックを与える装置(植え込み型除細動器)を予防的に皮下に植えることも行われています。

 

ドクター日浅の健康雑話 過去の記事はこちら

其の一 飲酒後コタツで一瞬気を失った 

其の二 お尻から太ももの後ろがしびれるので整形外科を受診した

其の三 心臓専門医の急性心筋梗塞体験記(上)

其の四 心臓専門医の急性心筋梗塞体験記(中)

其の五 心臓専門医の急性心筋梗塞体験記(下)

其の六 患者さんの感謝の言葉が一番うれしい

其の七 心臓も”気絶する”

其の八 川柳にみる診察室の風景

其の九 中年女性の狭心症は深夜に生じる

其の十 私の診察室から(1)

其の十一 冬のお風呂で“おぼれ死”かけた

其の十二 私の診察室から(2)

其の十三 一杯のラーメンが心不全を引き起こす

其の十四 “高齢だから”は心臓手術の妨げにならない 

其の十五 地域に根ざす先輩たちを見習いたい

其の十六 心臓病の診断や治療もAI(人工知能)の時代

其の十七 高齢者の薬との付き合い方

其の十八 医師がコロナに感染して思ったこと

其の十九 「酒は百薬の長」って本当?

其の二十 増えている心臓病由来の脳梗塞

其の二十一 糖尿病は血管を襲う

其の二十二 漢方薬といえども命に関わる副作用がある

其の二十三 動脈が“生木をさく”ように裂ける

其の二十四 心臓が悪くなくとも心不全になる

其の二十五 臥床が長くなると肺血栓塞栓症になる

其の二十六    高血圧は全ての動脈硬化病の最大の敵