日浅ドクターの”健康雑話” 其の二十六
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日浅ドクターの”健康雑話” 其の二十六
2024.03.15
海南病院のホームページを訪ねてくださりありがとうございます。
私が海南病院に勤務するようになって5年を迎えようとしています。月曜日の外来にはたくさんの方が受診してくださるようになり、医者冥利に尽きると感謝しています。
これからも海陽町民をはじめ、南部地域の方々に少しでも健康面でお役に立てればと願っています。その一環として、日々の診療の中で経験したことや感じたことを雑談的に書いてみたいと思います。気楽に読んでいただければ幸いです。
67歳のE夫さんは、58歳の時に軽い心筋梗塞症を起した病歴を持っています。その際に担当医から、病気を引き起こす危険因子として喫煙、高血圧、高コレステロール血症があることを指摘されていました。禁煙には何度か挑戦しましたが、友達との飲酒後や仕事上のストレスの際につい喫煙してしまい、未だ1日10本程度の喫煙をしています。高コレステロール血症については服薬を守り、“いい値”と云われていました。血圧に関しても、2カ月に一度受診した際に医院での測定値は、140mmHg 前後であり、“経過をみましょう”とされていました。
ところが、昨年末の朝、起床しトイレに行きドアを開けようとすると、右手に力が入らずうまく開きません。妻に声をかけましたが呂律が回らずうまく話せません。妻がその言葉の不自然さに驚き、救急車で専門病院を受診しました。MRI検査で左脳動脈が詰まっていることが分かり、カテーテルを使った治療で血流を再開通させることが出来ました。治療までの時間が早かったため、後遺症は少なく現在もリハビリ中です。
E夫さんの今回の脳梗塞の最大の原因は高血圧と思います。血管(動脈)は全身で繋がる一つの臓器として考えることが大事です。心筋梗塞を起こした時点で動脈という臓器の一部に強い動脈硬化が生じ、他の部分の動脈もかなりの病変が生じていると考えねばなりません。有名な研究によると、日本人は脳、心臓、腎臓、四肢等のいずれの部位に動脈硬化の病気が発生しても、次に病気が再発するのは脳卒中である確率が一番高いと云われています。実際、私が心筋梗塞や下肢閉塞性動脈硬化症の患者さんを治療していても、その部の再発よりも脳卒中を生じることが多いのが実情です。
動脈硬化病の再発予防(二次予防)には血圧の良好なコントロールが最も重要です。それも130/80mmHg未満という厳格な値を目指す必要があります。また、診察室での血圧よりも家庭での血圧測定がより重視されています。家庭血圧は次のような点で優れています。①毎日、起床後や就寝前の決まった時間や落ち着いた環境下で測定ができ“基礎血圧”ともいうべき安定した値を得やすい。②脳卒中や心筋梗塞を生じやすい早朝から午前中の血圧の状況が分かる。③白衣高血圧(診察室血圧のみ高値)や仮面高血圧(家庭血圧のみ高値)の存在が判明する等です。
E夫さんの場合、家庭血圧は測定しておらず、2カ月に1度程度の診察室血圧しか行っていませんでした。それも二次予防に必要な目標値よりもかなり高い血圧値でした。このことが10年近く続き脳卒中を引き起こしたものと考えられました。高血圧症の方や動脈硬化の病気を持っている方は、家庭血圧の測定は病気の治療に必要不可欠です。可能であれば体重測定も一緒に行い、記録したものを医師に見せてください。
以後、このブログは毎月掲載を止め、随時掲載としたいと考えています。ご了解ください。
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