ドクター日浅の”健康雑話” 其の二十五
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ドクター日浅の”健康雑話” 其の二十五
2024.02.15
海南病院のホームページを訪ねてくださりありがとうございます。
私が海南病院に勤務するようになって5年を迎えようとしています。月曜日の外来にはたくさんの方が受診してくださるようになり、医者冥利に尽きると感謝しています。
これからも海陽町民をはじめ、南部地域の方々に少しでも健康面でお役に立てればと願っています。その一環として、日々の診療の中で経験したことや感じたことを雑談的に書いてみたいと思います。気楽に読んでいただければ幸いです。
76歳のS子さんは肥満気味で糖尿病の持病もあります。昨年の秋、自宅の玄関で足を滑らせ、右足首をねん挫してしまいました。幸い骨折は無く、鎮痛薬の湿布剤で痛みも徐々に軽くなっていました。ただ動くと痛いので1週間程は殆ど横になる生活をしていました。その日、昼ごろにトイレに行こうと立ち上がると、フラフラして立っていられない感じになりました。少し歩くと動悸を感じ、息が速くなり息苦しくなりました。頭もぼんやりしてきました。すぐにかかりつけ医を受診し、胸部X線写真を撮影しましたが異常を認めませんでした。しかし心電図で異常があったため、私の外来を紹介されました。
受診時、脈拍は毎分110回、 呼吸数も毎分25回といずれも多いものでした。血液の酸素濃度は81%と低く、心臓や肺の機能が低下していることを示していました。心電図や心臓エコー検査で肺に原因があることが分かり、造影剤を使ったCT検査で肺動脈に大きな血の塊(血栓)が詰まっていることが証明されました。肺血栓塞栓症と診断し、血栓を溶かす薬剤を点滴や服薬治療しました。治療が効を奏し、10日間の入院でほぼ後遺症を残すことなく退院できました。
血液は次のような要素が重なると、固まって血栓を生じやすくなります。①血液の流れが停滞する、②凝固しやすくなる、③血管の内壁が傷むことです。S子さんの場合、臥床時間が長かったこと、肥満気味であったことが血液の流れを悪くしました。また糖尿病があったことに加え、足の痛みのため排尿回数を少なくしようと水分を控え、脱水気味になったことが血液を凝固しやすくしました。さらに高齢であることや、糖尿病が静脈の傷害を引き起こしていた可能性が考えられました。
静脈血栓の多くは、足のふくらはぎにあるヒラメ静脈に発生します。臥床状態が長引くと、収縮を繰り返し血液を絞り出しているヒラメ筋のポンプ機能が低下し、血流が停滞し血栓ができます。S子さんもエコー検査でこの部に血栓が出来ていることが確認されました。起立・歩行や排便、排尿が契機になり、筋肉のポンプ活動が活発になると、血栓は静脈の壁から剥がれ、遊離し、増大しながら心臓を経由して肺動脈に詰まります。
症状は、血栓が詰まった肺動脈の部位や広さにより肺や心臓に与える影響度が異なります。多くは呼吸困難、胸痛、頻呼吸を訴えます。ショック、失神、突然死を来たす重篤な人も1割程度います。身体の異常では毎分100回を超える頻脈が特徴的です。
長期臥床や長時間の座位、手術後、肥満、高齢の女性等は血栓ができやすい環境にあります。こうした人たちに上記の症状があれば、肺血栓塞栓症を疑います。造影剤を使ったCT検査で血栓を確認後、血栓を溶かす抗凝固薬を投与します。投与開始時間が早ければ効果も大となります。
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