ドクター日浅の”健康雑話” 其の二十四
NEWS
ドクター日浅の”健康雑話” 其の二十四
2024.01.15
海南病院のホームページを訪ねてくださりありがとうございます。
私が海南病院に勤務するようになって4年が過ぎました。月曜日の外来にはたくさんの方が受診してくださるようになり、医者冥利に尽きると感謝しています。
これからも海陽町民をはじめ、南部地域の方々に少しでも健康面でお役に立てればと願っています。その一環として、日々の診療の中で経験したことや感じたことを雑談的に書いてみたいと思います。気楽に読んでいただければ幸いです。
78歳のK子さんは、今まで病気になった記憶がないというほど元気で毎日畑仕事に精を出していました。夏ごろから疲れを感じるようになりましたが、暑さや歳のせいかと思っていました。ところが、11月中旬ごろから少し動いても息苦しくなり、耳の奥でガンガン耳鳴りがするようになりました。夫も心臓が悪く、自分と同じ症状だと渋る妻を私の外来に同伴してきました。
受診時、肺に血液が澱んでいる(うっ血)音が聴診でき、足に軽い浮腫を認めました。胸部X線写真でも肺うっ血や胸水があり、症状と併せて心不全と診断しました。ところが心臓の聴診や心電図、心臓エコー検査でこれといった異常がなく心臓に病気があるとは思えません。ただ、血圧が156/70mmHgと異常値を示していました。また掌や瞼の裏が青白く貧血を疑いました。実際血液検査で健康な人の半分以下の赤血球(ヘモグロビン)濃度しかない高度な貧血と判明しました。少量の利尿薬と造血剤を投与し輸血したところ、すみやかに心不全の症状や所見はとれ、耳鳴りも消失し本来の元気を取り戻しました。
K子さんの病名を「高心拍出量性心不全」といいます。心不全は「心臓が悪いため、息切れやむくみが生じ、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」と定義されています。高心拍出量性心不全は、心臓が悪くなくとも、他の臓器が酸素をもっともっとと過重に要求する病的な状態になり、心臓がそれに応えているうちに疲れてしまう病気です。K子さんのように高度の貧血が長期間続くと、酸素運搬の役割をする赤血球が少ないため、体中の組織が酸素不足となり、「酸素をもっともっと」と多くの血液量を心臓に要求し続けます。通常、心臓は1分間に約5リットル前後の血液を拍出しますが、高心拍出量性心不全では8リットル以上の血液を拍出させられています。心拍出量を多くするため、血圧は上の血圧を高く下の血圧を低くし、上下の差(脈圧)を大きくします。この結果、ドクドクといった耳鳴りや拍動性の頭痛を感じるようになります。
同じようなことは貧血の他、甲状腺機能亢進症、敗血症、脚気(ビタミンB1欠乏症)、極度な肥満、妊娠末期、動脈-静脈の短絡(血液透析、肝臓病)等でも生じます。これらに共通している病気の状態は、組織の高度な酸素不足を改善させるため、組織と血管の酸素のやり取りをしている末梢血管の抵抗を低下させ、血液の流れをよくしようとするものです。その結果、抵抗が少ない分心臓の拍出量は多くなり、長期間この状態が続くと心臓はバテて心不全になってしまいます。
治療は原因となる病気の改善が最重要です。貧血であれば造血剤や輸血で改善させること、甲状腺機能亢進症であれば抗甲状腺薬を、脚気であればビタミンB1を投与します。また、これらの病気に罹患している方や極度の肥満、妊娠末期の方は、普段と違った体動時の息切れや足の浮腫が生じた場合は心不全の可能性も考え、受診することを心掛けてください。
ドクター日浅の健康雑話 過去の記事はこちら
其の二 お尻から太ももの後ろがしびれるので整形外科を受診した