ドクター日浅の”健康雑話” 其の二十三
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ドクター日浅の”健康雑話” 其の二十三
2023.12.15
海南病院のホームページを訪ねてくださりありがとうございます。
私が海南病院に勤務するようになって4年が過ぎました。月曜日の外来にはたくさんの方が受診してくださるようになり、医者冥利に尽きると感謝しています。
これからも海陽町民をはじめ、南部地域の方々に少しでも健康面でお役に立てればと願っています。その一環として、日々の診療の中で経験したことや感じたことを雑談的に書いてみたいと思います。気楽に読んでいただければ幸いです。
59歳のK夫さんは、30歳半ば頃から高血圧を指摘されていましたが、降圧薬は断続的にしか服用していませんでした。血圧は高いときには180/110㎜Hgと言われた時もありました。また、約40年間1日40本のたばこを吸う喫煙者でもありました。冬のある日午前7時頃、突然激しい背中と首の痛みを覚え、同時に頭痛も出現しました。気分が悪くなり嘔吐をしました。
近くの脳神経外科病院で頭部CT検査を行いましたが異常を認めず、整形外科医院を紹介されました。そこで肩や首の電気治療を受けましたが改善しません。帰宅し様子をみていましたが、ますます気分が悪くなり背中の痛みも治まりません。夕方になり徳島市内の救急施設を受診し、心電図異常があることから狭心症の疑いで、徳島赤十字病院に紹介され22時頃受診しました。
普段高い血圧が80㎜Hgに下がり、大動脈弁が逆流する心雑音も聴取されました。冷汗をかいており、手足は冷たくショック状態でした。造影剤を使った胸部CT検査の結果、心臓から出た直後の大動脈が裂け、大動脈弁にも障害を来たし血液が逆流していること、心臓の筋肉と外側の膜の間にも血液が溜り心臓が拡がりにくくなっていること等が判明しました。直ちに弁を含めた大動脈を換える手術が行われ、幸いにも命を取り留めました。
K夫さんの病気を急性大動脈解離(かいり)といいます。この病気は大動脈の壁の内膜が裂け、内膜と中膜の隙間に血液が流れ込み、高い血圧によって血管が“生木を裂く”ように引き裂かれていきます。このため、突然の激しい胸痛や背中の痛みで発症することが多いことが特徴です。解離が進むに従って痛みが移動することもあります。また、解離によって大動脈から派生する血管の血流が悪くなると、各血管に応じ心筋梗塞、腕のしびれや冷感、脳梗塞、腹痛等の症状が出てきます。
大動脈解離は死亡率の高い病気です。特に解離が心臓から脳動脈が派生するまでの上行大動脈に生じたA型では、手術をしなければ死亡率が1時間あたり約1%上昇するといわれています。すなわち24時間以内に20%、48時間で30%、1週間で40%もの患者が死亡すると報告されています。このため、A型と診断された場合は、火急的に手術をする必要があります。それに反し、下行大動脈に解離が生じるB型の死亡率は低く、当面は血圧を下げる治療で様子をみます。この病気はマルファン症候群等の遺伝的な病気が原因でない大多数の例では、K夫さんのようにコントロール不良の高血圧が長期間続いた場合に生じます。このため、高血圧症を有している方は普段から血圧のコントロールを心がけることが最大の予防になります。また突然に生じ、重症感を伴う胸痛や背部痛、腹痛などは心筋梗塞や大動脈解離等の生命に関わる病気である可能性が高いため躊躇なく受診することが大事です。
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