ドクター日浅の”健康雑話” 其の二十二
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ドクター日浅の”健康雑話” 其の二十二
2023.11.15
海南病院のホームページを訪ねてくださりありがとうございます。
私が海南病院に勤務するようになって4年が過ぎました。月曜日の外来にはたくさんの方が受診してくださるようになり、医者冥利に尽きると感謝しています。
これからも海陽町民をはじめ、南部地域の方々に少しでも健康面でお役に立てればと願っています。その一環として、日々の診療の中で経験したことや感じたことを雑談的に書いてみたいと思います。気楽に読んでいただければ幸いです。
80歳のM子さんは、67歳の時に心臓弁膜症で手術をした病歴を持ち、現在も高血圧や慢性腎臓病の持病があるため近医を定期的に受診しています。今年の春先、朝食中、フワーと意識が遠のき食卓の上にうつ伏せになりました。すぐに元に戻ったため軽いめまいを生じたのかと思いましたが、念のためかかりつけ医を受診しました。ところが診察中に再び意識が遠のき座っていた椅子から床に崩れ落ちました。医師が記録した心電図で危険な不整脈が多数出ているとのことで、私の勤める病院に救急搬送されました。
病院で心電図検査の結果、“非持続性心室頻拍”という命に関わる不整脈が出ていること、その原因として血液中のカリウム値が極端に低いことが判明しました。M子さんのお薬手帳や持参薬をみると、医師から処方された降圧薬や利尿剤の他に、芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)という漢方薬を服薬していたことが分かりました。M子さんに聞くと、夜間や午前中に足の筋肉がこむら返りをよく起こすので、約半年前から薬局で購入し服薬しているとのことでした。この漢方薬が主原因であると診断、中止のうえカリウムを正常に戻す投薬をした結果、不整脈は生じなくなりました。
漢方薬は副作用が少なく比較的安全な薬と思われがちですが、時に重篤な副作用を引き起こすことがあります。M子さんが服薬していた芍薬甘草湯には甘草(カンゾウ)という生薬が含まれています。この薬は消炎、鎮痛、去痰、鎮咳などの作用があり、他の生薬ともよく調和することから漢方薬の薬7割に配合されています。また、市販の総合感冒薬や解熱鎮痛剤、鎮咳・去痰剤、さらにはカロリーの少ない甘味料として菓子類にも使用されています。
甘草の副作用として重大なものに、偽アルドステロン症があります。この病気は血圧を上昇させるアルドステロンというホルモンが増加していないにも関わらず、血圧上昇、浮腫、カリウム喪失が出現するものです。カリウムが低値になると手足の脱力感、筋肉痛やこむら返りのような筋肉症状がでます。また心臓の筋肉が敏感になり、M子さんのように生命にかかわる不整脈が生じ、失神発作や突然死を起こすことがあります。偽アルドステロン症は、漢方薬を服薬しているからといって滅多に発症するものでありません。しかし、漫然と長期に服薬したり、カリウム喪失を起こす利尿薬と併用したりすると生じやすくなります。その他、漢方薬には、間質性肺炎という生命に関わる副作用があることも報告されています。
こうした副作用を避けるためには、①“漢方薬は副作用がない”という安全神話を持たないこと、②長期間漫然と服薬しないこと、長期間服薬する場合は副作用のチェックもすること、③異なった漢方薬を重複服薬したり、利尿剤などの他の薬剤と一緒に服用することは副作用の危険も増すことに留意することなどが重要です。
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