ドクター日浅の”健康雑話” 其の二十一
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ドクター日浅の”健康雑話” 其の二十一
2023.10.15
海南病院のホームページを訪ねてくださりありがとうございます。
私が海南病院に勤務するようになって4年が過ぎました。月曜日の外来にはたくさんの方が受診してくださるようになり、医者冥利に尽きると感謝しています。
これからも海陽町民をはじめ、南部地域の方々に少しでも健康面でお役に立てればと願っています。その一環として、日々の診療の中で経験したことや感じたことを雑談的に書いてみたいと思います。気楽に読んでいただければ幸いです。
68歳のY雄さんは、若くして糖尿病を発症し、32年の罹患歴があります。父母ともに糖尿病があり、ことに母親が網膜症により失明し、不自由な生活を余儀なくされたのを傍らでみてきました。このため、血糖のコントロールには細心の注意を払い、医師からも評価されていました。お陰で毎年検診する眼底検査でも大きな異常はなく、蛋白尿もありませんでした。ところが昨年末、畑仕事中に軽く胸部を締め付ける感覚が数度あり、かかりつけ医を受診したところ、狭心症の疑いがあるとして私の外来を紹介されました。冠動脈造影検査の結果、主要血管すべてに狭窄所見があることが判明し、冠動脈バイパス手術を受けました。現在は症状も全くなく元気に暮らしています。
糖尿病治療の目標は、種々の合併症を予防することにより、健康な人と変わらない寿命を確保し、社会生活の面でも健康な人と変わらない人生を送ることです。この目標を達成するために重要なことは、糖尿病の合併症の発症・進展を阻止することです。糖尿病の合併症には、糖尿病細小血管合併症と動脈硬化性疾患の2種類があります。いずれも血管に障害を与えるため、“糖尿病は血管病”ともいわれています。糖尿病細小血管合併症には網膜症、腎症、神経障害があり、それぞれ失明、腎透析、しびれ等の神経障害の原因となります。細小血管合併症は、血糖を良好にコントロールすることにより、発症・進展をほぼ抑制できると報告されています。
一方、虚血性心疾患、脳血管障害、末梢動脈疾患を発症させる動脈硬化性疾患(大血管症)の発症は、血糖のみならず血圧や脂質、生活習慣等多くの因子が複雑に関与しています。このため予防には、血糖のコントロールのみでは不十分で、血圧や脂質等も含めた総合的なコントロールが必要です。さらに重要なことは糖尿病の罹病期間です。多くの患者さんは糖尿病に気付いた時点で、高血圧・高脂血症・喫煙等動脈硬化危険因子が存在し、動脈硬化はかなり以前から始まっていると思わねばなりません。私は糖尿病歴が10年になる人は、心臓の冠動脈狭窄の存在を疑って診察をします。20年になる方は、冠動脈狭窄があるものとして診ています。Y雄さんのように30年になる患者さんは、重症の冠動脈狭窄があるとして診療をしています。
糖尿病の患者さんは、網膜症や腎症に関しては眼底検査や尿検査を積極的に受けていますが、動脈硬化性疾患に関してはやや注意が足らないように感じます。また、糖尿病があると心筋梗塞になっても無症状だったり、ごく軽微なことがあります。このため、ちょっとした胸部不快感や息切れを感じたら、かかりつけ医に相談すること、症状が無くとも年に1度は心電図、可能であれば運動負荷心電図をチェックしてもらうことをお勧めします。
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其の二 お尻から太ももの後ろがしびれるので整形外科を受診した