ドクター日浅の“健康雑話” 其の二十
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ドクター日浅の“健康雑話” 其の二十
2023.09.15
海南病院のホームページを訪ねてくださりありがとうございます。
私が海南病院に勤務するようになって4年が過ぎました。月曜日の外来にはたくさんの方が受診してくださるようになり、医者冥利に尽きると感謝しています。
これからも海陽町民をはじめ、南部地域の方々に少しでも健康面でお役に立てればと願っています。その一環として、日々の診療の中で経験したことや感じたことを雑談的に書いてみたいと思います。気楽に読んでいただければ幸いです。
72歳のS子さんは高血圧と軽症の糖尿病の持病がありますが、いたって元気で畑仕事に精を出す毎日を送っていました。昨年の秋が深まったある日、朝食をとっている最中に箸を落としてしまいました。持ち直そうとしてもうまく握れません。右の口の端がしびれていることにも気づきました。急いで隣の人に救急車を呼んでもらいました。救急病院で左側の脳動脈が詰まっている脳梗塞と診断され、血の塊(血栓)を溶かす薬剤を点滴してもらいました。処置が早かったため血管は再開通し、後遺症もほとんどなく退院することができました。診察した医師は脳梗塞の原因を時々脈が乱れる「一過性心房細動」であると診断し、私の外来を紹介していただきました。
脳の血管が詰まる脳梗塞の原因として、心臓由来の血栓が脳動脈に飛来する心原性脳梗塞が最近増加しています。その主な原因は心房細動です。心房細動は、収縮と拡張を規則正しく繰り返していた心臓が全く無秩序なリズムになってしまう不整脈です。“絶対性不整脈”ともいい、専門医なら脈を触診するだけで診断できます。この不整脈が生じると、動悸等の不愉快な症状、心臓の力が落ちて心不全になりやすい、血栓が心臓に生じ脳や腸の動脈に詰まる塞栓症を生じる等の不具合がでます。心房細動はプロ野球の長嶋茂雄さん、サッカー監督のオシムさんが脳梗塞になったことで広く知られるようになりました。
心房細動患者の約1/3はS子さんのように脳梗塞になって初めて病気の存在が分かったという報告もあります。この不整脈を発見するためには次のような留意が必要です。
①脈拍を測定する方法を知っておく。
②家庭で血圧測定時に脈拍の変動に注意する。
③一過性の動悸を感じた場合は医師に相談する。
④高血圧や糖尿病等の生活習慣病を持っている場合、検診等の機会があれば心電図もとるようにする。
⑤診察時に医師に脈拍の測定や心臓の聴診を行ってもらう。
心房細動それ自体は心臓が止まり生命に危険を及ぼす不整脈ではありませんが、上述のような種々の不具合が発生します。通常は薬物で塞栓症を予防(抗凝固療法)正常のリズムに戻す(洞調律維持療法)、心拍数を効率のよい数に調整する(心拍数調整療法)を行います。最近はカテーテルを用い、完治を目的にしたアブレーション療法を行う患者さんも増加しています。
この治療は、①不快な症状が強い、②進行度が初期で一過性である、③年齢が比較的若い、患者さんに勧めています。S子さんもアブレーション治療を受け心房細動は消失しました。
心房細動の治療法は、症状の軽減、生活の質(QOL)の向上、生命予後の改善を総合的に判断し決めますが、患者さんによっては無治療で様子を診ることも多くあります。
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