ドクター日浅の”健康雑話” 其の十九
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ドクター日浅の”健康雑話” 其の十九
2023.08.15
海南病院のホームページを訪ねてくださりありがとうございます。
私が海南病院に勤務するようになって4年が過ぎました。月曜日の外来にはたくさんの方が受診してくださるようになり、医者冥利に尽きると感謝しています。
これからも海陽町民をはじめ、南部地域の方々に少しでも健康面でお役に立てればと願っています。その一環として、日々の診療の中で経験したことや感じたことを雑談的に書いてみたいと思います。気楽に読んでいただければ幸いです。
76歳のT夫さんは53歳の時に心筋梗塞になりました。幸い軽くすみ、日常生活には何の支障もなく暮らしてきました。当時、医師から「適量の飲酒は心筋梗塞の再発予防に有効だ」と聞かされ、それまでの甘党から毎日1合の日本酒を習慣にするようになりました。ところが最近、健康診断で大便の潜血が陽性になり精密検査の結果、大腸がんであることが判明しました。担当医師から飲酒習慣は大腸がんの大きな危険因子であることを聞かされ、同時に少量の飲酒でも心臓病の予防効果が無いことが最近判明したということも教えられました。
兼好法師は徒然草の中で、「百薬の長とはいえど、万(よろず)の病は酒よりこそ起これ」と述べています。このように「適量ならば、飲酒は健康に良い」とされてきました。心臓病に関しても、T夫さんが以前指導されたように、軽量から中等量にかけての飲酒は心筋梗塞等の心血管病のリスクを低下させる(Jカーブを呈する)と多くの研究で報告されてきました。しかし、最近の優れた研究では、少量飲酒によるこうした効果は認められないとされています。世界心臓連合は2022年1月に発表した報告書で、「適量の飲酒は心臓病のリスクを低下させるという考えに異議を申し立て、アルコール関連死や障害の急激な増加に緊急かつ決然とした行動を」と節酒や禁酒を呼びかけています。T夫さんもこうした説明を受けた後は飲酒を止めたそうです。
がんに関連しては、もっと厳しく指摘されています。国立がん研究センターによると、日本人は飲酒により食道がん、肝臓がん、大腸がんの発症リスクが確実に上昇し、閉経前の女性では乳がんが、男性では胃がんの発症リスクがほぼ確実に上昇するとされています。アルコールによる発がんにはアルコールそのものと分解産物であるアセトアルデヒドが関わっています。日本人はアセトアルデヒドの分解酵素が少ない“お酒に弱い”人が多いため発がんリスクも高いと云われています。
反面、お酒には気分をリラックスさせたり、他人とのコミュニケーションを円滑にさせたり、日本文化と密接な関連(神事や結婚式等)もあり、完全な禁酒を求めるのも現実的ではありません。厚生労働省の指針では、節度のある適度な飲酒として純アルコール量として1日平均20g程度(ビール中瓶1本、日本酒1合、ワイン小グラス2杯に相当)としています。ただし女性、お酒に弱い人、高齢者は半分程度にし、週2日は飲まない日を作ることが望ましいと付記しています。飲酒習慣のない人に飲酒を勧めるものでないことも強調されています。
飲酒に対する結論は次の通りです。(生田哲、PRESIDENT Online 、2023/02/22)
①アルコールは健康にはマイナスである。だから飲まないのがベストである。
②今飲酒していないなら、よりよい健康を求めて飲み始める必要はない。
③すでに飲酒しているなら、適量を超えて飲むべきでない。
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