ドクター日浅の”健康雑話” 其の十六
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ドクター日浅の”健康雑話” 其の十六
2023.05.15
海南病院のホームページを訪ねてくださりありがとうございます。
私が海南病院に勤務するようになって4年が過ぎました。月曜日の外来にはたくさんの方が受診してくださるようになり、医者冥利に尽きると感謝しています。
これからも海陽町民をはじめ、南部地域の方々に少しでも健康面でお役に立てればと願っています。その一環として、日々の診療の中で経験したことや感じたことを雑談的に書いてみたいと思います。気楽に読んでいただければ幸いです。
76歳のM夫さんは、この2~3年ある不思議な症状に悩まされていました。それは何の前触れもなく、決まった時季や時間も関係なくやってきます。家人と会話している最中や読書しているとき、畑仕事をしているときに目の前が突然スーと白くなります。行っていることを中断せざるを得ませんがほんの数秒で元に戻ります。短いときで2カ月、長いときは半年に1度くらいの頻度で生じます。かかりつけの医師に相談し、脳のMRI検査や24時間心臓の状態が記録できるホルター心電計の検査を受けましたが、それを裏付ける異常は認められませんでした。その医師から紹介され、私の外来を受診しました。
私はM夫さんのお話から、症状が前失神状態であると判断し、ループレコーダの植え込みを勧めました。植え込みから2カ月半後、私の遠隔モニターに異常が送られてきました。深夜0時20分頃約4秒の心臓停止が生じていました。ペースメーカーを植え込み、その後半年以上たった現在では何の症状もありません。
AI(Artificial Intelligence;人工知能)は、現在医療の現場でも開発が進んでおり、心臓病の診断や治療にも応用されつつあります。そのごく初期段階ともいえる器具を私たちも使い始めました。植え込み型ループレコーダは通常の心電図や長時間心電図では検出が難しいごく稀に生じる不整脈を診断する目的で皮下に挿入される心電計です。患者さんが症状があったとスイッチを押した場合には数分前にさかのぼって心電図が記録されます。また、予め想定された不整脈が発生した場合にも自動的に記録が保存されます。M夫さんのように深夜睡眠中で自覚がなかった場合でも、異常をモニターで私たち監視者に送ってきます。体積2㎤以下と極めて小さいため、外来で植え込み手術ができます。また、MRI検査にも支障がありません。2~5年の電池寿命があり、その間記録が可能です。
不整脈をはじめとする心臓病の診断は、症状が生じている“現場”を捕まえることが最も大事です。上記の植え込み型ループレコーダ以外にもAIを活用した種々の診断器具があります。ホルター心電図は最も一般的な器具で24時間の記録が可能です。夜間睡眠中に生じる不整脈や狭心症の診断にはことに有用です。24時間のホルター心電図で不整脈が検出されなかった場合はイベント心電計を用いることもあります。これは症状があった場合にレコーダを胸に当て、イベントボタンを押すことで心電図を記録するものです。症状と不整脈等の因果関係を知ることができます。
当院でもホルター心電図や植え込み型ループレコーダを活用して種々の不整脈の診断を行っています。ぜひ活用してください。
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