ドクター日浅の″健康雑話” 其の十七

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ドクター日浅の″健康雑話” 其の十七

2023.06.15

 海南病院のホームページを訪ねてくださりありがとうございます。
 私が海南病院に勤務するようになって4年が過ぎました。月曜日の外来にはたくさんの方が受診してくださるようになり、医者冥利に尽きると感謝しています。
 これからも海陽町民をはじめ、南部地域の方々に少しでも健康面でお役に立てればと願っています。その一環として、日々の診療の中で経験したことや感じたことを雑談的に書いてみたいと思います。気楽に読んでいただければ幸いです。

其の十七 高齢者の薬との付き合い方

あなたは多剤服用していませんか

 

 82歳のS男さんは慢性心房細動、高血圧症で私の外来を受診しています。病気に対してまじめに治療を受けている方です。私から抗凝固薬(血液サラサラ薬)と降圧薬を3種類処方していました。ある時、きちんと服薬しているはずの抗凝固薬がかなり余っているとの申し出がありました。原因をよく調べると、S男さんは他に腰痛症があり整形外科医院から鎮痛剤、胃薬等を3種類、近所の医院からも不眠症、便秘症、高コレステロール血症等で4種類の薬剤を投与されていました。どの薬剤を服薬したかあいまいなことが多くなり、大切な抗凝固薬を飲み忘れたことが分かりました。初診の際、ほかに服薬が無いかお聞きしたのですが、心臓病には関係ないだろうと黙っていたとのことです。抗凝固薬の飲み忘れがいかに危険なことかを再度説明し、下記のことを提案しました。

 高齢者は多くの病気を有し、慢性疾患が多いため多剤を服用している方をよく見かけます。東大病院の研究では薬剤数が6種類以上になると転倒等の薬剤が原因の事故が急増、高齢者救急の3~6%は薬剤起因であり、長期入院のリスクが2倍になるとされています。高齢者は腎機能が低下していることが多く、薬が体に蓄積し副作用を起こしやすくなります。また多剤は、腎臓に負担をかけ腎機能をさらに落とし命を縮めることに繋がります。高齢者の薬との付き合い方をお話しします。

①薬は優先順位を考えて最小限にする。

 どうしても必要な薬のみに絞ることが肝要です。私は、高齢者には未病を防ぐ(一次予防)の薬は基本的には不要と考えています。例えば、コレステロールを下げる、尿酸を下げる、血液サラサラ薬(アスピリン)等です。サプリメントや健康食品も“隠れ多剤服用”になります。

②副作用が強い薬剤は慎重な服薬が必要。

 睡眠薬や抗不安薬は認知症を誘発、促進する可能性があります。生活改善を試みたり本当に必要なときのみに使用します。高齢になると腰痛や関節の病気を持っている方が多く、鎮痛剤が多く処方されています。多くの鎮痛剤は腎臓に悪影響を及ぼします。可能なら鎮痛剤は頓用や外用で使用することをお勧めします。漢方薬は安全といわれていますが、漫然と服薬しているとカリウムが低下し、心臓に危険な不整脈を生じることが多々あります。

③薬の管理を一人の医師に任せること。

 複数の医師にかかっている場合、可能なら一人の医師に窓口になってもらい薬の管理を任せましょう。できない場合は“お薬手帳”を使って類似薬を整理してもらいましょう。

④むやみに薬を欲しがらない。

 薬には効果と同時に副作用があることを理解し、安易に薬に頼らないことが大事です。

⑤自己判断で減薬してはいけない。

 医師と相談して不必要なものを少しずつ減らすことが大事です。

ドクター日浅の健康雑話 過去の記事はこちら

其の一 飲酒後コタツで一瞬気を失った 

其の二 お尻から太ももの後ろがしびれるので整形外科を受診した

其の三 心臓専門医の急性心筋梗塞体験記(上)

其の四 心臓専門医の急性心筋梗塞体験記(中)

其の五 心臓専門医の急性心筋梗塞体験記(下)

其の六 患者さんの感謝の言葉が一番うれしい

其の七 心臓も”気絶する”

其の八 川柳にみる診察室の風景

其の九 中年女性の狭心症は深夜に生じる

其の十 私の診察室から(1)

其の十一 冬のお風呂で“おぼれ死”かけた

其の十二 私の診察室から(2)

其の十三 一杯のラーメンが心不全を引き起こす

其の十四 “高齢だから”は心臓手術の妨げにならない 

其の十五 地域に根ざす先輩たちを見習いたい

其の十六 心臓病の診断や治療もAI(人工知能)の時代