ドクター日浅の″健康雑話” 其の十四

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ドクター日浅の″健康雑話” 其の十四

2023.03.15

 海南病院のホームページを訪ねてくださりありがとうございます。
 私が海南病院に勤務するようになって4年を迎えようとしています。月曜日の外来にはたくさんの方が受診してくださるようになり、医者冥利に尽きると感謝しています。
 これからも海陽町民をはじめ、南部地域の方々に少しでも健康面でお役に立てればと願っています。その一環として、日々の診療の中で経験したことや感じたことを雑談的に書いてみたいと思います。気楽に読んでいただければ幸いです。

其の十四 “高齢だから”は心臓手術の妨げにならない

92歳の命を救ったカテーテルによる心臓弁手術

 

 現在95歳のA子さんは1人暮らしですが身の回りのことは全て自分ででき、散歩をすることを趣味として元気な毎日を送っています。私がこの病院に勤め始めた4年前、A子さんは心不全で入院していました。それまでも何回か息切れや浮腫で入退院を繰り返していたそうです。担当医からは「高齢であり薬も効かなくなっており余命いくばくもない」と聞かされていました。私は聴診や心エコー検査を行い、心不全を伴った重症の大動脈弁狭窄症はあるものの弁を換えれば元気になれると診断しました。A子さんも可能であれば5年でも10年でも元気に長生きしたいという強い意思を示されました。その当時、県内では徳島赤十字病院のみに認可されていたカテーテルを使った大動脈弁置換術(TAVI)なら彼女の年齢や“体力”でも十分可能と判断し紹介しました。A子さんは約1週間の入院で見違えるように元気になり帰ってきました。

 カテーテルを使った大動脈弁置換術(TAVI)は、カテーテル尖端の風船に巻きつけた人工弁を太股の付け根の動脈から挿入します。生来の大動脈弁の位置で風船を拡張することで人工弁を圧着させます。風船を収縮しカテーテルを抜けば手術は終わりです。この方法では患者さんの身体的負担が少ないため、従来の開胸手術が困難とされていた高齢者や他に持病を持っている方も治療が可能になりました。一方、この方法は10年位の歴史しかなくまだ評価が一定でない面もあります。

 カテーテルを使った心臓手術の始まりは、今から約40年前に始まった冠動脈形成術です。動脈硬化で狭くなった心臓の血管を風船やステントで拡張する手術です。私は日本で行われ出した当初からこの方法を導入し“草分け的存在”と自負しています。当時は大変な苦労がありましたが、関係者が努力し技術の向上や器具の改良を重ねました。現在では狭心症や急性心筋梗塞治療の主流になり、患者さんにも有用性が広く認識されるようになりました。

 この冠動脈形成術がきっかけとなり、カテーテルを使った大動脈弁置換術(TAVI)をはじめ、今では以下に記すような種々の病気にカテーテル治療が行われています。

①心房細動等の不整脈に対するアブレーション治療

②心房細動の血栓予防のための左心耳閉鎖術

③大動脈瘤に対するステント留置術

④僧帽弁閉鎖不全症に対する経皮的僧帽弁クリップ術

⑤心房中隔欠損症や動脈管開存症に対する経カテーテル閉鎖術

 心臓手術と恐れずに遠慮なく相談ください。

 

ドクター日浅の健康雑話 過去の記事はこちら

其の一 飲酒後コタツで一瞬気を失った 

其の二 お尻から太ももの後ろがしびれるので整形外科を受診した

其の三 心臓専門医の急性心筋梗塞体験記(上)

其の四 心臓専門医の急性心筋梗塞体験記(中)

其の五 心臓専門医の急性心筋梗塞体験記(下)

其の六 患者さんの感謝の言葉が一番うれしい

其の七 心臓も”気絶する”

其の八 川柳にみる診察室の風景

其の九 中年女性の狭心症は深夜に生じる

其の十 私の診察室から(1)

其の十一 冬のお風呂で“おぼれ死”かけた

其の十二 私の診察室から(2)

其の十三 一杯のラーメンが心不全を引き起こす